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仙台地方裁判所 昭和32年(行)19号 判決

原告 加藤辰太郎

被告 仙台北税務署長

訴訟代理人 滝田薫 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三十一年七月二日付でした原告の昭和三十年度の所得金額を金五十八万九千七百七十四円と更正する処分のうち、金三十五万五千六百七十七円を越える部分を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

原告は、肩書地において、田三町九畝、畑四反一畝を耕作して農業を営み、そのかたわら仙台市高砂農業協同組合長及び同共済組合長の職にあるものであるが、被告に対し昭和三十年度の所得を金三十五万五千六百七十七円と確定申告したところ、被告は、昭和三十一年七月二日これを金五十八万九千七百七十四円と更正し、その旨原告に通知した。そこで原告は、被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は、昭和三十二年一月二十三日右請求を棄却する旨の決定をし、その頃右決定が原告に送達されたので、原告は、さらに仙台国税局長に対し、審査の請求をしたのであるが、同局長は、同年八月二十六日右請求を棄却する旨の決定をし、同決定は翌二十七日原告に送達された。

しかしながら、被告の右処分中金三十五万五千六百七十七円を超える部分は、次に述べる理由によつて違法である。すなわち、原告の昭和三十年度における所得金額は、別紙第一農業所得金額算出表に詳述している農業所得金十五万千百五十九円に給与所得金二十一万百六十二円を加えた合計金三十六万千三百二十一円であるにすぎない。このことは、原告が被告の調査を受けた際被告に提出した農家簿記、預金通帳、公租公課、納付書、電力料金受領書等により容易に算定し得るところである。しかるに被告は、かかる資料に基く収支の実額調査を行うことなく、漫然農業所得標準率を適用して原告の農業所得を算定し、給与所得を合わせた原告の昭和三十年度における所得を金五十八万九千七百七十四円と更正したが、その差額金二十二万八千四百五十三円は明らかに違法な認定にかかるものであるから、その取消しを求めるため、本訴に及んだと述べ、なお、被告主張事実中、通常年雇人費(賄費込)が金七万五千円であることは認めるが、その他の事実は否認する、と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実中、原告の昭和三十年度における農業所得が金十五万千百五十九円であることは否認するが、その他の事実は認める。

原告が右農業所得を明確にするため被告に提出した資料のうち、農家簿記には、一応現金支出と作業日誌に類する事項が記載されているが、農業収穫物に関する記録現金収入に関する事項、棚卸に関する事項及び固定資産に関する事項が全然記載されていないのみならず、右現金支出の記載も家事関連費と資本的支出の区分が明確にされていない等多くの欠陥があり、また領収書等も断片的で整備されておらず、他に右事項を明らかにする資料は存在していなかつた。そこで、被告はやむなく収支の実額調査にかえ、推計により原告の農業所得金額を算出するにいたつたのである。

被告は、右算定の基礎を農業所得標準に求めたのであるが、農業所得標準は、次の方法によつて作成せられたものである。即ち一税務署管内を原則として地方状況等によつて三地帯に区分し、各地帯ごとに地力状況中庸と認められる一ケ町村を基準として選定し、その基準町村については各五件、その他の町村については各二件の農家を標本調査の選定方式に基いて選定し、収入及び支出の状況、農業経営の実態を調査する。詳述すれば、基準町村については納税義務ある農家の平均耕作反別に近似するものの中から二件、これより五反程度多いもの及び少いものの中から各一件、一町歩程度多いものの中から一件、計五件を又基準町村以外の町村については前年分所得税について納税義務ある農家の平均耕作反別に近似するものの中から二件を選定し、収入及び支出の状況、農業経営の実態を調査する。他面基準市町村についておおむね二十五件以上、その他の市町村については二ないし十件程度の坪刈調査及び検見調査を実施し、その他作付状況、各種統計をも充分検討のうえ、収穫高並びに経費の調査をするとともに、選定農家については帳簿等をできるだけ精密に調査し、これらの調査資料を基礎として、普通田、畑、そ菜畑について一反歩当り所得(収入金から必要経費を控訴したもの)を算出し(田にあつては同一市町村を地区共済組合基準反収によりおおむね五段階に区分し、畑については主として普通畑収穫高により一ないし三階級に区分する。)各々一反歩当りの標準所得としたものである。この単位当り標準所得に各農家の田については右各階級に区分された地区農業共済組合引受面積に、畑については実際耕作面積を乗じて得られた金額から平年作に対し三十%以上減収した災害田については別に作成した減算所得標準率により減算し、右の田畑所得の算出上収入に含まれていない昭和二十九年産米減収加算金、俵代等はこれに加算し、個別性が大きい経費として、田畑所得標準率算出上経費に含まれていない牛馬費、土地改良区費、水利費、雇人費、共済掛金及び伝貧馬による馬廃用の経費等を控除すれば、当該年分の農業所得金額を算出することができることとなる。

右の方法で作成し運用される農業所得標準は、税務官庁で単独に独善的な方法で作成運用するものでなく、関係市町村当局及び各農業団体と事前に調査資料に基き十分な意見の交換を行うなど標準の一般的妥当性を尊重する方法を講じているのであり、このようにして作成された標準は一般に公開されている。

右の方法で作成された原告の耕地の存在する高砂地区の農業所得標準は別紙第二の一、二であり、これによつて原告の係争年度における農業所得金額を推算すると次のとおりである。

(一)  原告が係争年度において耕作した普通田は、三町九畝歩であるが、地区農業共済組合が統一的に決定している共済引受基準反収を基準として、その地力差等によりA、B、C、D、Eの五階級に区分すると、原告の普通田は、右Bに該当するので、その一反歩当り適用所得金額は金二万二千七百三十円であるから、これに耕作反数を乗じて、原告の係争年度における普通田の所得金額を金七十万二千三百五十七円と算定した。

(二)  原告が係争年度において耕作した普通畑は四反一畝歩であつて、高砂地区における普通畑をその収穫高によりA、B、Cの三階級に区分すると、原告の畑は右Aに該当するので、その一反歩当り適用所得金額は金一万二千六百九十八円であるから、これに耕作反別を乗じて、原告の係争年度における普通畑の所得金額を金五万二千二十九円と算定した。

(三)  前記所得標準率の算出の際、昭和二十九年度産米の米価改訂による減収加算額及び俵代は収入として加算されていないし、又牛馬費、土地改良区費、水利費、雇人費、共済掛金、予約減税額及び伝貧馬による馬廃用の経費は個別性が大きいので、経費として控除されていないから、(一)(二)の農業所得金額に後記(イ)減収加算額及び(ロ)俵代を加算したものから後記(ハ)ないし(チ)の各経費を控除した額が、原告の最終農業所得金額となる。

(イ)  減収加算額金七千七百十八円――昭和二十九年産米の米価改訂による減収加算額は、一石当り金百四十円(昭和三十年七月十二日農林省告示第五九六号参照)であるから、これに原告の同年産米供出高五十五石一斗三升を乗じて得た金額。

(ロ)  俵代金六千六十四円――原告の昭和三十年産米予約売渡数量五十五石一斗三升に前記田畑所得標準率と同様の方法で算定した供出俵代一石当り所得標準金百十円(乙第二号証の四参照)を乗じて得た金額。

(ハ)  牛馬費金五万六千円――原告の居住の高砂地区は、仙台北税務署管内の農業所得標準算定上の地域区分が平担部に該当するので、前記田畑所得標準率と同様の方法で算定した平担部における農耕馬一頭当り経費金二万八千円(乙第二号証の四参照)に原告の飼育する農耕馬二頭を乗じて得た金額。

(ニ)  土地改良区費及び水利費金一万八千八百十一円――関係組合から提出された資料に基き算定した。

(ホ)  雇人費金二十万六千四百円――雇人費のうち年雇給料金二万五千六百七十五円、年雇人米代金七千七百六十五円、年雇人世話料金二千円、車馬借用料金五千三百円及び臨時雇延人員が五百三十一人であることについては、原告の主張をそのまゝ是認した。右臨時雇人に対する賃金については、原告提出の農家簿記には、一応の記帳はあるが、右農家簿記自体に前記のとおり多数の欠陥が存在するので、これに拠ることはできなかつたしその他にこれを証する証拠がなかつたので、原告居住地域の臨時雇協定賃金や標本農家並びに青色申告農家の事績からみて、いずれも食費を含めて一人平均三百円であるので、これに右臨時雇延人員五百三十一人を乗じて得た金十五万九千三百円をもつて、臨時雇人給料、臨時雇人米代、賄代、醤油代等をも含めた臨時雇に関する総費用とした。なお原告主張の雇人費金二十五万八百七十六円のうちには、年雇人に対する賄費が計上されていないので、次のような方式によつて原告の年間年雇人賄料を金六千三百六十円と算定した。すなわち標準年間年雇人費(賄費込)が金七万五千円であることから、これを基に原告方年雇人費用を換算すると金五万四千五百円(75,000円×218日(原告方年雇延人員数)/300日(通常の年雇従事日数))となるのであるが、原告方年雇延人員二百十八日のうち十二日を除いてすべて女子年雇で、それらが全部農業に従事したとは認められなかつたから、うち五十日間を家事従事日数と認め、右五万四千五百円から五十日分の年雇人費用一万二千七百円を差引いた金四万千八百円を原告の年間農事関係通常年雇人費とし、そのうちから原告主張の年雇人給料金二万五千六百七十五円、年雇人米代金七千七百六十五円及び年雇人世話料金二千円合計金三万五千四百四十円を差引いた残額金六千三百六十円をもつて、年雇人の年間賄費として計上した。以上年雇人費金四万一千八百円、臨時雇費金十五万九千三百円、車馬借用料金五千三百円を合計した金二十万六千四百円を雇人費とした。

(ヘ)  共済掛金千六百十四円――水稲、麦の共済掛金は、前記田畑所得標準作成の際、一般経費として計算済のものであるから、別途に控除の要はなく、原告の役馬二頭に対する共済掛金千六百十四円を標準外経費減算額として計上した。

(ト)  予約減税額金六万六百四十三円――原告の昭和三十年産米予約売渡数五十五石一斗三升に石当り千百円を乗じて得た金額。

(チ)  馬廃用経費金四万五千八十九円――係争年度中における原告の農耕馬一頭廃用による損失額。

以上の計算によると原告の昭和三十年度農業所得は、別紙第三所得金額算出表記載のごとく、金三十七万九千六百十二円となる。よつて、これに争いのない給与所得金二十一万百六十二円を加えた金五十八万九千七百七十四円をもつて、原告の昭和三十年度における所得金額と決定した。従つて、本件更正処分は正当であつて、原告の本訴請求はその理由がない、と述べた。

(立証省略)

理由

原告が肩書地において田三町九畝、畑四反一畝を耕作して農業を営み、そのかたわら、仙台市高砂農業協同組合長及び同共済組合長の職にあること、原告が被告に対し昭和三十年度所得を金三十五万五千六百七十七円と確定申告したところ、被告は昭和三十一年七月二日右所得金額を金五十八万九千七百七十四円と更正し、その旨原告に通知したこと、そこで、原告は、被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は、昭和三十二年一月二十三日右請求を棄却する旨の決定をし、その頃右決定が原告に送達されたので、原告は、さらに仙台国税局長に対し審査の請求をしたのであるが、同局長は、同年八月二十六日右請求を棄却する旨の決定をし、同決定は、翌二十七日原告に送達されたこと及び原告の昭和三十年度における給与所得が金二十一万百六十二円であることは、当事者間に争いがない。

そこで原告の昭和三十年度における農業所得につき当事者間に争いがあるから、判断するに、甲第四号証(原告の昭和三十年度農家簿記)には、一応現金支出及び雇入日数に関する記載はあるが、収穫収入棚卸、現金収入、固定資産の各関係事項の記載が全然ないばかりか、右現金支出の記載は家事関連費との区別が明確でない。又甲第十九号証(昭和三十年度収支計算明細書)は、証人加藤国寿の証言によると、右農家簿記及び加藤国寿の記憶に基き記帳されたものであることが認められるのであつて、収支の全部を過不足なく、かつ正確に記帳されたものとは認め難く、甲第五号証の一、二、第六号証の一ないし九、第七号証、第九ないし第十二号証、第十四ないし第十六号証、第十七号証の一ないし六、第十八号証の一、二、三、第十九、第二十号証、第二十一号証の一、二、第二十二号証の一ないし七、第二十三号証の一ないし十二、第二十四号証の一ないし十一、第二十五号証の一、二、第二十六ないし第三十号証、証人加藤国寿、阿部護の証言、その他の証拠によれば供出した米、馬鈴薯の数量代金、購入した肥料、穂苗の代金、牛馬費、防虫剤、電力料金、公租公課、現金収支の一部等原告の農業収入、経費の一部を断片的に認めることができるけれども、全資産の棚卸、農作物による収入の総体、現金収支の全部、固定資産関係事項、農業経費と家事関連費との区分等については、これを認めるべき証拠がないから、全立証によつても、原告の農業による総収入金額及び必要経費を具体的に認定することができない。

従つて、具体的資料に基き原告の農業所得を算定することは不可能であるので、推計によつてこれを算定するのを相当とする。

そして、成立に争いがない乙第一号証、乙第二号証の一ないし四、乙第三号証の一ないし六、乙第五ないし第七号証並びに証人高橋博の証言によると、別紙第二の一、二の昭和三十年度普通田畑の公開農業所得標準表は、被告主張の方法によつて作成されたのであることが認められるから、右表は合理的に作成せられた適正な標準であると認めるべきである。

そこで、右標準による原告の昭和三十年度における農業所得を算定する。

(一)  成立に争いがない乙第二号証の三、第八号証、証人高橋博の証言によると、原告の田は耕地未整理地であり、その地力は別紙第二の一の地力区分「B」に、畑の地力は別紙第二の二の地力区分「A」にそれぞれ該当することが認められ、田の面積が三町九畝畑のそれが四反一畝であることは当事者間に争いがないから、原告の昭和三十年度における田の基本所得は別紙第二の一の反当適用所得金二万二千七百三十円に三町九畝を乗じて得た金七十万二千三百五十七円、畑のそれは別紙第二の二の反当標準所得金一万二千六百九十八円を四反一畝に乗じて得た金五万二千二十九円であり、その合計額は金七十五万四千三百八十六円となる。

(二)  成立に争いがない乙第二号証の一ないし四、第三号証の一ないし六、証人高橋博の証言によると、供出俵代及び昭和二十九年産米の米価改訂によると減収加算額が別紙第二の一の所得額に加算されていないし、又土地改良区費、水利組合費、農耕牛馬費、雇人費、役牛馬に対する共済掛金、予約減税額、伝貧馬による馬廃用経費が控除されていないことが認められるから、農業所得を算定するためには、前記(一)の基本所得額にこれらの金額を加減しなければならない。

よつて、以下にこれらの加算又は控除せらるべき金額について判断する。

(1)  (俵代) 成立に争いがない甲第六号証の一及び同号証の三ないし九によると、原告の昭和三十年度における米殻の供出高は、百四十三俵(五十七石二斗)であることが認められ、成立に争いがない乙第二号証の四、第三号証の五によると、供出俵の所得標準額は供出米一石当り金百十円であることが認められるから、供出俵代の合計額は、金六千二百九十二円となる。

(2)  (昭和二十九年産米の米価改訂による減収加算額)成立に争いがない乙第九号証の二、三によると、原告の昭和二十九年産米の供出高は、五十五石二斗であることが認められ、同年度供出米の政府買入価格は、昭和三十年七月十二日農林省告示第五百九十六号により、昭和二十九年十月十五日農林省告示第六百七十七号によつて定められた価格を一等ないし五等の各等につき一俵当り金五十六円増額しているから、右加算額は金七千七百二十八円となる。

(3)  (牛馬費)証人加藤国寿の証言によると、原告は、昭和三十年度において農耕馬二頭を所有していたことが認められるが、その飼育費については、全証拠によるも正確な算定は不能であるから、推計によりこれを算出するほかはない。

成立に争いがない乙第三号証の一、四によると、仙台北税務署管内の市町村を平担部、中間部、山間部の三地域に区分すると、原告居住の高砂地区は平担部に該当し、同所における農耕馬一頭当り適用標準費用は、金二万八千円であることが認められるから、二頭分の費用は金五万六千円と推算する。

(4)  (土地改良区費及び水利組合費) 証人高橋博の証言によると原告の土地改良区費及び水利組合費が金一万八千八百十一円であることが認められ、甲第四号証、第二十号証をもつても右認定を左右することはできない。

(5)  (雇人費) 原告は、雇人費につき二十五万八百七十六円を要した旨主張するのであるが、全証拠によるも、原告の要した雇人費を正確に算定することはできないから、これを推計により算出するほかはない。

まず、年雇人費を推算する。原告の年雇人日数が二百十八日であること、及び通常年間年雇人費(賄費込)が金七万五千円であることは、当事者間に争いがない。

右年間年雇人費は、年雇人の農業従事日数は、年間を通じ三百日であるとし、これを前提に計算されているものと認めるのが相当であるから、日数により年雇人費を換算するときは、一日当り二百五十円(75,000円÷300=250円)として計算すべきところ、前掲甲第四号証によると、原告方年雇人のうち、とし子を除くその余の年雇人は、ほぼ農業に従事しているが、右とし子が農業に従事したのは、その全日数百六十二日のうち約七十七日であつて、その他は休業又は農業外に従事していること、及び右とし子は、一月一日から六月十一日迄の年雇人であつて、その前半期間は農閑期に該当することが認められるのであるから、右とし子の農業従事日数は、同人の全日数のうち三分の二、即ち百八日と認めるのが相当であり、従つて、原告方年雇人の農業従事日数は、年雇人とし子の百八日とその余の年雇人の五十六日、合計百六十四日と認めるのが相当であるから、その年雇人費用は、四万千円(250円×164=41,000円)と推計する。

次に、臨時雇人費について推計するに、原告の臨時雇人延人員が五百三十一人であることは、当事者間に争いがない。

証人成瀬格の証言によると、高砂地区における臨時雇の協定賃金は、一日平均二百円に協定されており、同地区内の農家は、ほぼ右協定賃金に従つていることが認められるから、原告の臨時雇人賃料も一人当り一日二百円として算定するのが相当である。(なお、前掲甲第四号証には、原告が臨時雇人賃料として合計金十七万三千六百二十円(五百二十八人分、一人当り平均約三百三十円)を支払つた旨の記載があるが、右記載は、同号証自体に前記のとおり多数の欠陥が存在すること、及び右成瀬の証言にてらし信用できないし、その他に右賃料額を支払つたことを認められることのできる証拠はない。)

成立に争いがない乙第二号証の四によると、年雇人一人当り年間標準賄費は、金三万三千円であることが認められるので、これより一日当り年雇人賄費を換算すると金百十円(即ち、年雇人は年間を通じ三百日農業に従事するものと認めるのが相当であるから、33,000円÷300=110円である。)となる。ところが、右年雇人賄費金百十円は、一日三食についてのものであるから、これを臨時雇人に適用するためには、朝食分として、その約三分の一の三十日を差し引いた八十円をもつて相当と認めるべきである。従つて、臨時雇人の一日当り賄費は、八十円と推計するのが相当であるが、これに農繁期における酒代、又は間食代などを考慮し、右金額に二十円を加えた百円をもつて、臨時雇人一日当り平均賄費と推計するのが相当である。

そうすると、原告の臨時雇人費は、右賃金と賄費との合計額金三百円に前記延人員を乗じて得た金十五万九千三百円と算定すべきである。

従つて、原告の雇人費は、年雇人費金四万千円と臨時雇人費金十五万九千三百円との合計額に、当事者間に争いのない車馬借用料金五千三百円を加えた金二十万五千六百円と推計する。

(6)  (役牛馬に対する共済掛金)成立に争いがない甲第二十五号証の一、二、乙第八号証によると、原告の農耕馬に対する共済掛金は、二頭分合計金千六百十四円であることが認められる。

(7)  (予約減税) 原告は、政府に対する米穀の事前売渡申込制度に基く予約減税額を金八万四千円と主張し、成立に争いがない甲第六号証の一、同号証の三ないし九、甲第七号証並びに乙第四号証の一、二によると、原告の昭和三十年産米に対する予約減税額が、時期別価格差相当額、申込加算額相当額及びその他をふくめれば、原告主張の金八万四千円であることを肯認することができるけれども、別紙第二の一の田の所得標準の収入金額の算定にあたり、時期別価格差及び申込加算額が加算されていないことは、証人高橋博の証言によつて認められるから、時期別価格差相当額及び申込加算額相当額を収入金額より重ねて控除する必要がないので、原告の予約減税額に関する主張のうち一部は理由がない。

前記乙第四号証の一、二によれば、時期別価格差相当額、申込加算額相当額の減税のほかに、政府に対し昭和三十年十一月三十日までに売渡の申込をし、同三十一年二月二十九日までに売り渡した昭和三十年度産米につき一石当り金千百円の減税措置をとられることが認められ、前記甲第六号証の一、三ないし八、第七号証によると、原告の前記申込期限までに政府に対し売渡の申込をした昭和三十年産米の石数は、五十五石一斗であつて、前記売渡期限までに売渡した石数は五十七石二斗であることが認められるから、控除すべき予約減税額は、五十五石一斗に一石当り千百円を乗じて得た金六万六百十円である。

(8)  (馬廃用経費) 証人加藤国寿の証言により真正に成立したことを認める甲第十四号証、第十五号証、証人加藤国寿の証言、原告本人尋問の結果によると、原告が昭和二十九年末頃金七万円で買受けた農耕馬一頭が昭和三十年一月七日死亡したので、同日原告はこれを高松精肉店に金一万五千円で売却し、又右死亡による共済金として金一万千六百三十六円を受領したことが認められる。従つて、原告の馬廃用経費は金七万円から金一万五千円と金一万千六百三十六円との合計金額を控除した金四万三千三百六十四円である。

よつて、原告の係争年度における農業所得は、前記(一)の基本所得金七十五万四千三百八十六円に(1)俵代金六千二百九十二円、(2)昭和二十九年産米減収加算金七千七百二十八円を加えた金七十六万八千四百六円から(3)牛馬費金五万六千円、(4)土地改良区費及び水利組合費金一万八千八百十一円、(5)雇入費金二十万五千六百円、(6)役牛馬に対する共済掛金千六百十四円、(7)予約減税額金六万六百十円、(8)馬廃用経費金四万三千三百六十四円合計金三十八万五千九百九十九円を控除した残額金三十八万二千四百七円と推計すべきである。

そうすると、原告の農業所得を金三十七万九千六百十二円と認定し、これに当事者間に争いのない原告の給与所得金二十一万百六十二円を加えた金五十八万九千七百七十四円をもつて、係争年度における原告の課税総所得金額と認定した被告の本件更正処分は結局相当であり、課税総所得が金三十五万五千六百七十七円であることを前提として、この金額を越える部分の取り消しを求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 渡部吉隆 丹野益男)

(別紙第一)

農業所得金額算出表

収入

必要経費

(田の部) 円

米 733,541

公租公課 39,610

俵 10,010

電力料 7,613

早期供出奨励金 4,400

電燈料 1,315

(畑の部)

種苗代 19,878

大麦 19,000

肥料(購入)代 70,050

小麦 500

牛馬費 38,959

馬 13,650

馬廃費 43,364

大豆 9,600

農具費 13,760

茄子 1,500

償却費 58,471

白菜 10,500

傭入費 2,050,876

大根 2,000

衣料費 16,410

小豆 540

その他 21,886

葱 その他 12,110

小計 817,351

小計 582,192

予約減税額 84,000

差引所得 151,159

差引収入金合計 733,351

(附表)

米収入明細表

種別

数量

単価

金額

売渡米

57.2石

10,221円

583,551円

保有米

16.69

9,587

160,000

俵収入明細表

数量

単価

金額

143俵

70円

10,010円

(附表)

公租公課明細表

科目

金額

固定資産税

24,340円

荷車税

1,200

家畜税

400

生産組合費

1,050

農協賦課金

1,190

共済掛金

水稲

8,630

大麦

391

土地改良費

2,329

39,610

(附表)

種苗代明細表

種別

金額

10,609円

大麦

488

小麦

250

馬鈴薯

5,855

茄子

600

大根

140

白菜

250

玉菜

30

蓬連草

100

玉葱

675

350

大豆

600

小豆

45

牛蒡

150

19,878

(附表)

肥料代明細表

種別

数量

単価

金額

石灰窒素

20俵

400円

8,000円

同上

1俵

540

540

尿素

6俵

900

5,400

同上

1俵

850

850

塩化加里

8俵

850

6,800

硫安

2俵

870

1,740

同上

7俵

900

6,300

過燐酸石灰

33俵

555

18,315

同上

7俵

565

3,955

硫加里

1俵

1,350

1,350

人糞尿

320本

20

6,400

魚粕

5俵

2,100

10,500

70,050

(附表)

牛馬費明細表

種別

金額

14,000円

麦糠

4,725

乾草

5,750

780

共済掛金

1,614

装蹄料

3,950

器具(馬物切)借用代

550

口輪

1,000

タテゴ

1,180

去勢代

1,000

刷毛

2,150

馬体検査料

200

カルボン

1,400

塩化カルシユーム

120

注射料

540

38,959

(附表)

農具費明細表

品名

金額

馬耕鋤先

400円

四樽機械

90

除草機

3,220

草刈鎌(8本)

600

稲刈鎌(5本)

380

シート

4,500

レンリング

20

ハロネン

100

荷カギノツコ

130

ガルスノキユン

320

300

馬本カスボ

90

砥石

60

屋根葺工賃

950

タク工賃

2,000

腰籠

600

13,760

(附表)

償却費明細表

品名

規格または数量

購入価格

耐用年数

償却費

馬耕

3丁

6,300円

7年

810円

2頭

13,000

8

13,500

馬車

1台

40,000

12

3,000

荷車

1台

9,000

12

675

馬車鞍

3ケ

7,000

7

900

飼桶

6ケ

3,000

5

540

マンガ

2ケ

9,700

10

450

肥桶

12ケ

18,000

10

1,620

同上

18ケ

9,000

20

810

岡壷

1ケ

3,000

20

270

溜壷

4ケ

40,000

30

1,200

稲杭棒

1,050本

20,750

3

9,225

電動機

2馬力

15,000

15

900

脱穀器

2ケ

2,200

10

2,880

電動機レール

700

5

2,400

籾摺器

全自動

2,500

10

2,250

唐箕

2,500

15

150

万石

3,000

15

180

1升ばかり

200

10

18

同上

1斗ばかり

2,000

10

180

台坪

1,200

15

702

製縄器

4,600

8

525

噴霧器

肩負式

1,500

5

675

腰籠

40ケ

1,200

5

210

ハム

1ケ

2,500

7

320

ジヤバラ

8,000

7

1,030

作業場

13.5坪

12,600

50

2,670

納屋厩舎

20坪

7,500

50

1,350

倉庫

12坪

350,000

50

6,300

プレー

3ケ

1,800

15

108

コンデンカー

1ケ

3,000

15

180

俵編器

2ケ

800

12

60

ベルト

6,000

10

540

シヤフト

1本

900

15

52

シヤフトカバー

600

15

36

精米機

1,000

10

300

ヤリ桶

5ケ

1,750

5

315

自転車

1,200

5

2,400

半選器

3,500

7

450

58,681

(附表)

雇人費明細表

種別

備考

金額

年雇

年雇給料

とし子 162日 1日80円の割 小遣800円

13,800円

よし子 37日 1日200円の割

7,400

英雄 12日 1日250円の割 小遣75円

3,075

文子 7日 1日200円の割

1,400

年雇米代

延218人 1人4合の割

7,765

雇人世話料

2,000

臨時雇

臨時雇給料

通常時雇 延444人

1人当り328円の割

174,520

田植時雇 87人

臨時雇米代

田植時雇 延87人 1人当り4合の割

3,099

賄代

通常時雇 延444人

13,322

田植時雇 延87人

11,310

醤油代

730

酒代

1斗5升

7,155

車馬借用料

馬車3台半

3,200

馬 3頭

2,100

250,876

(附表)

衣料費明細表

品名

数量

金額

ニコニコ反物

1反

500円

モンペ地

3反

1,650

紺織反物

6反

4,200

作業衣袴

1,050

前掛

1,390

稲刈前掛

1,050

足袋

80

地下足袋

6足

1,710

2足

1,250

シヤツ袴下

2着

800

帽子

2ケ

1,000

手拭

20本

600

指サツク

420

6本

660

50

16,410

(附表)

その他の明細表

品名

金額

品名

金額

BHC

180円

ゴムサツク

310

ウスピリン

810

茶菓子

300

煙草粉

20

ポ池

150

ワツクス

235

空俵

4,200

レンリング

28

新聞紙

1,440

モーター油

60

農手利子

1,770

塩(選用)

385

ラジオ

321

1,000

電球

80

解縄

500

電池

300

1,800

電気のタス

240

案山子竹

3,400

電車賃

702

案山子紙

220

サドル

500

タカ竹

700

便箋

120

苗負籠

300

21,886

草刈場代

110

雑草払下

200

(別紙第二の一)

昭和30年分田の所得標準表(反当)

地区

地力区分

収入

必要経費

標準所得

縄延率

適用所得

適用収量

単価

金額

公租公課

種苗代

肥料代

農具費

償却費

その他

自給

購入

衣類費

その他

高砂

2.99

10,170

30,408

664

370

985

2,331

3,316

613

522

349

1,556

1,905

7,390

23,018

104.6

24,070

2.84

28,882

635

942

2,227

3,169

1,486

1,835

7,144

21,738

22,730

2.72

27,662

605

897

2,123

3,020

1,417

1,766

6,896

20,766

21,720

2.54

25,831

558

827

1,955

2,782

1,305

1,654

6,499

19,332

20,220

2.07

21,051

506

751

1,777

2,528

1,186

1,535

6,074

14,977

15,660

(注1) 「収入単価」金10,170円は、昭和30年12月末現在における売渡米の検査等級ごとの裸値を加重平均によつて算定した「平均米価」石当り金9,639円に、副産物たる藁の石当り収量45貫に単価を乗じて得た金540円を加わえた金額である。

なお、「収入単価」は、売渡時期に応じて控除される時期別価格差相当額及び事前売渡しの申込みをしたことにより支払われた申込み加算額相当額も含めないで算定したものである。

(注2) 「公租公課」とは、固定資産税、諸車税、水稲大麦の共済掛金、土地改良区費を除くその他の土地改良費、水利費等を指す。

(注3) 肥料代のうち「自給費」とは、前年度産米の藁のうち牛馬飼育費、俵その他の藁工品製、屋根葺替用等として利用される数量を除いた堆費造成用の藁代をいい、また「購入費」は、反当投下肥料の数量より当該地区の耕作面積に応ずる推定総必要量を求め、これと当該地区における売買肥料の総数量の実額とを比較し、実状に即した購入費料金額を計上する。

(注4) 「償却費」の算定は、所得税法第10条の2、同法施行規則第12条の11ないし13、同法施行細則第1ないし第4の4及び固定資産の耐用年数等に関する省令(昭和26年大蔵省令第50号)の定めるところによる。

(注5) 必要経費のうち「その他」の費用とは、農業関係衣料費、農薬代、農業手形利子、家屋修理費、協同組合費、薪炭代、電力電燈料、籾摺費、油代、新聞雑誌代、苗代、保温用紙等当該費目以外の経費から所得税法第10条第2項により家事費、同関連費を控除した農業経営に関する費用を指す。

(別紙第二の二)

昭和30年分普通畑の所得標準表(反当)

地区

地力区分

収入

必要経費

標準所得

公租公課

種苗代

肥料代

農具費

償却費

その他

高砂

21,343

463

1,378

3,318

842

536

2,108

8,645

12,698

20,216

432

1,462

3,092

2,003

8,367

11,849

18,522

407

1,524

2,919

1,923

8,151

10,371

(注1) 「普通畑」とは、麦類、陸稲、馬鈴薯、甘藷、雑穀及び自家用野菜を作付する畑をいう。

(注2) 必要経費の各費目の内容及び算定方法は、別紙第二の一田の所得標準表におけるそれに準ずる。

(別紙第三)

農業所得金額算出表

区分

適用標準所得

標準外収入加算額

標準外経費減算額

所得

減収加算金

俵代

土地改良区費

牛馬費

雇入費

共済掛金

予約減税

馬廃費

基本

石 斗

石 斗

石 斗

309

41

55 2

55 2

馬2頭

55 2

馬1頭

標準

22,730

12,690

140

110

28,000

1,100

金額

702,357

52,029

7,718

6,064

18,811

56,000

206,400

1,614

60,642

45,089

379,612

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